出発の決断 Decision of starting

長女のリタは文学を愛する物静かな女性でした。彼女はグラスゴー学院で音楽と、英仏文学を学んでいます。リタは竹鶴が日本から持参したツヅミという楽器に大きな関心がありました。リタのピアノと竹鶴のツヅミ、ルーシーの歌による「蛍の光」の合奏などをするうちに、いつしか竹鶴とリタの心は単なる親しみからより深いものに変わっていきました。半年も経ち、二人は家の外の公園などでも逢うようになりました。

年も暮れに近づきカウン家は竹鶴をクリスマスに招きました。毎年のクリスマスを、ひとり下宿で侘びしく過ごしていたことを竹鶴は思い返しながら玄関をノックしました。

クリスマスのクライマックスはプディング占い…。6ペンス銀貨が入っていたら大金持ちに、指輪を当てた女の子はお嫁さんになれるというイギリスでポピュラーな他愛のないゲームでした。ところが偶然、竹鶴に銀貨、リタに指輪が当たり、歓声が上がりました。

こうして間もなく竹鶴はリタにプロポーズしました。竹鶴は愛するリタに「あなたさえよければ、私はスコットランドに残って働いてもいいと思っています。」

しかし、リタははっきり言いました。「わたしたちは・・・スコットランドに留まるべきではありません。日本へ向かうべきだと思います」
リタはさらに言葉を重ね、
「マサタカさんは、大きな夢に生きていらっしゃる。その夢は日本で本当のウイスキーをつくること。私もその夢を共に生き、お手伝いしたいのです。」
竹鶴にとって生涯忘れられない言葉になりました。

もちろん今とは違い国際結婚など珍しい大正時代。良き理解者であったカウン氏はどんなに夜中でも急患があると出かける地元の人々に尊敬される医師でした。しかし、そんな二人の結婚の決意も知らぬまま過労のために急逝…。

天地がひっくり返るほどびっくりしたのは広島の実家。竹鶴の母からの手紙は「青い目のイギリス人との結婚だけは、どんなことがあっても思いとどまってほしい。おまえのために家業の酒屋を親類に譲ってやめてまでしてイギリスにやったのだから、今度は私たちの希望を聞いてくれ」

外国人を見たこともない両親の杞憂のなか、どんな人なのか阿部社長にぜひ見てきてほしい、阿部社長が認める人なら納得する、ということになり、こんな事になったのも自分が竹鶴をスコットランドに行かせたという責任感で英国へ渡ることになりました。

渡英した阿部社長はいいました。「優しい人だし、それになかなか美人だね。日本に連れて帰るように。」竹鶴が通訳してリタに告げると、彼女は飛び上がって喜びました。

竹鶴とリタの結婚式は、グラスゴーのステーションホテルに牧師を呼んで行われました。阿部社長、大学で世話になったウィリアム博士、こうして阿部社長の仲介などの末、ついに妹ルーシーだけが祝福してくれるだけの二人だけの届出結婚という形で役所に提出しただけの結婚でした。

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