増えてきたスクリューキャップワインは安いワインだけ?
世界のワイン業界で、いま最も関心を集めている話題の一つがワインの栓(クロージャ)の選択肢、すなわち「スクリューキャップか、合成コルクか、または天然コルク系の栓か」の問題です。
このテーマは西暦 2000 年ごろ以降、欧米のワイン専門誌では定番トピックス化(年に一度は特集)していますし、この 2-3 年は日本のワイン専門誌も、詳しい解説記事を掲載するようになりました。問題の根源は、「世界の市販ワイン20-30 本に 1 本程度はコルク臭(cork-tainted またはブショネ)と呼ばれる異臭がある」、といわれていることで、外誌では「テロワールよりワイン栓の方が重要な問題だ」などという過激な表現を使う例も見られます。
一般市場で購入する輸入ワインにも、スクリューキャップや合成コルクを随分多く見かけるようになりました。また、日本ワインでも合成コルクを採用するメーカーが増えつつあります。
ワイン栓の種類
1.天然コルク
まず、ワイン栓の歴史を概観しておきましょう。「天然コルク (natural cork)」が栓として使われるようになったのはギリシャ・ローマ時代から(文献によっては中世から)、日本では明治初期からで、歴史的信頼感のある安定した素材です。その昔はコルク樫の木に対する塩素処理などはなかったでしょうから、今のようなコルク臭の問題もなかったでしょうから、もっぱら漏れ、折れ、ダスト(屑)などが、品質問題の主流だったと思います。
2.圧搾コルク
第二世代のコルク。圧搾コルクが登場したのは、20世紀初頭です。天然コルクを打ち抜いた残りの部分のコルクをより粒状に細かくして、コルクの形に固めたものです。コルク特有の木目は楽しめませんが、天然コルクと違い品質を安定させることができ、価格が安いのが特長です。基本的に長期熟成のワインには使用されません。
3.一部天然・一部圧搾コルク
真ん中に圧搾したコルクを、その両端に天然コルクを使用したものです。
天然コルクのような外観を持ちながら、圧搾コルクの手軽な価格と安定した品質で量産できるという、両方の良いとこ取りのタイプです。
4.合成コルク
合成コルクの登場は、1990年ごろです。。アメリカ、オーストラリアに合成コルクのメーカー数社ができたのがはじまりですが、実際に市場で注目されるようになったのは 1995-96 年ころから。1996 年頃までプラスチック製のコルク栓があるなどとは、業界人もほとんど知りませんでした。1998 - 2000 年ごろから、合成コルクがアメリカ、オーストラリアで急拡大を開始。21 世紀にはいって、ヨーロッパでも広まり、いまや、オールドワールド(フランス、イタリアなどヨーロッパのワイン生産国)の合成コルク総使用量は、ニューワールドをしのぐ勢いです。フランスの合成コルクの総使用量はアメリカの合成コルク総使用量より多く、ドイツの合成コルク総使用量はオーストラリアの合成コルク総使用量より多くなっています。
樹脂製コルクと呼ばれることもある、プラスティックから作られる栓です。カジュアルな価格のワインに多く使用されています。
密閉性が高いため、開け方に少しコツがいるのがこのプラスチックコルク。ワインオープナーよりは、ソムリエナイフがあると開けやすいので、持っていれば試してみてくださいね。
現在では、世界中で 50 社を超える会社が合成コルクの製造に参入しています。日本には商業生産をしている会社は一つもありません。
5.スパークリングワイン用のコルク
密度が高い重めのコルクでできています。きのこ型を想像するかもしれませんが、もともとはきのこ型ではありません。円筒型のコルク栓を機械でボトルにさしこむ時、コルクがくびれてきのこ型になっていくのです。
そのため、ボトルの口との密着性は抜群。スパークリングワインのガスに内側から押されるので、通常はコルクを固定するワイヤーとセットで使用されています。
6.スクリューキャップ
ドリンクのキャップのように溝が入れられており、くるくる回して開け閉めするタイプです。ワインオープナーなしで開けられるうえ、何回でも開閉できるので使い勝手が良いのが魅力です。
キャップの長さはロングタイプからショートタイプまであり、保存の時もボトルを横に寝かす必要がありません。
ところで、なんとなく「コルク栓が使われているほうが高いワイン」というイメージを持っていないでしょうか。近年はコルクの希少性が高まってきたことと、スクリューキャップがワイン保存に最適なことから、高級ワインでもスクリューキャップを採用するようになっていることも増えています。
今の形態の「スクリューキャップ」が本格的に注目されるようになったのは今世紀(21 世紀)になってから、火がついたのはニュージーランドです。しかし、実際にはほぼ同じ形状のキャップは 40 年ほど前から「ステルキャップ」という名称で、世界中で使用されていました。日本でも特に 70 ~ 80年代は随分多く使用されたのですが後述する事情で今では随分減ってしまいました。そのステルキャップを一工夫したものが「ステルヴァン」で、フランスのアルキャン社(旧ペシネ社)が立役者です。流行というのは不思議なもので、2001 年頃からニュージーランドとオーストラリア、それがフランス、ドイツなどに飛び火して、現在最も急成長、といえるでしょう。
◎開け方のコツ
開け方は少しコツがいります。ボトルの底とキャップを持ち、ボトル側を回して開けるのが正しい開け方です。キャップ側を回して開けようとすると、力を入れてもなかなか開けられないので注意してくださいね。
7.テクニカルコルク
昔は天然コルクと圧搾コルクしかありませんでしたが、圧搾コルクの両端に天然コルクジスクを貼り付けた「1+1」や「ツイントップ」と称するもの、あるいは TCA 除去プロセスをかけたコルク粒を成型する、「DIAM」(OENEO 社の商品名)など、いわゆる「テクニカルコルク」と称されるものがこの 10 年ほどでつぎつぎ商品化されました。なかでも、「1+1」、「ツイントップ」が成長株です。TCA を除去する方法ではコルク生産最大手の Amorim 社の ROSA プロセスが有名で、同社の「ツイントップ」などですでに採用されていますが、現状ではまだコルク粒での処理が中心です。
TCA とは
英語で cork-tainted、あるいは単に corked、フランス語でブショネ、日本語でカビ臭、コルク臭などと表現されるワインの異臭は、主にはTCA(trichloranisole、トリクロロアニソール ) という物質からく
るものです。TCA は、コルクや木材の殺菌・防カビあるいは漂白のための化学処理物質にある種の微生物的反応が加わって発生するものです。
一般的なコルク臭の問題は数 ppt(一兆分の一、すなわち ng/l) で、ワイン素人にとっては「なんだか、おいしくないワイン」、ワイン玄人にとっては「問題のあるワイン」になってしまうことです。中味のワインが本来良質のものであってもコルク臭がついてしまえば、飲んだ人は「このコルクが悪い」ではなく「このワインは不味い」ということになってしまいます。
8.ガラス栓
スクリューキャップと同様、コルクの消費を抑えようというエコな観点から広まりつつあるキャップです。ガラス製で、ドイツを中心に浸透してきています。
イメージはコルク栓のガラスバージョンといったところで、開け閉めが簡単にできるのが特長です。ワインオープナーなどの特別な道具を使わずに開けられるうえ、コルク臭さがないのも人気の理由です。
本場ではヴィノ・ロックと呼ばれています。まだまだ日本ではお目にかかれる機会が少ないのですが、見た時に「ああ、ヴィノ・ロックを使ってるんだね」なんて言うと、ワイン通な印象を持ってもらえるかもしれません!
フランス、イタリアでもスクリューキャップが年々増えています
何となく「スクリューキャップのワインは安っぽい」「やっぱりワインといえばコルクが本格派」というイメージをお持ちの人もいるかと思います。ワイン生産者よりも消費者のそうした印象を考えて高級ワインにスクリューキャップや合成コルクの使用を避けていました。
その理由は次のような点にあります。
・質の良いコルク栓の調達が難しくなってきている
上質なコルクをとるためには、10年以上コルク樫の成長を待つ必要があるため、最近では質の良いコルク栓の調達が難しくなってきています。
・手軽に開けられる
コルクを抜くためにはワインオープナーやソムリエナイフといった道具が必要です。これはオープナーによって楽しく簡単にあけられるものですが、これが手間がかかる、難しいという人も多いのではないでしょうか。
・スクリューキャップがワイン保存に最適だとする意見が増えた
ワインのスクリューキャップの使用がさらに増えるー全体の3割に
2016年の世界のワイン市場では、スクリューキャップのワイン栓の使用がさらに進み、全体のおよそ30パーセントのワインがスクリューキャップとなっているようだ。特にワインの最大市場であるヨーロッパとアメリカでそのシフトが顕著に起こっていると指摘しています。
参考:サッポロビール「Wine Opener」、きた産業(株)